赤海胆漁師 辻 二七(つじ にしち)
しばらくすると辻さんの舟は港へ帰ってきました。 辻さんは、長崎県平戸市獅子で海胆を採りはじめて30年、海胆漁のプロです。
赤海胆のシーズンになると、辻さんは毎朝10時~夕方の5時まで赤海栗漁にでます。 ウエットスーツを着込み、素もぐりで海底15メートルまで潜水し、岩場の奥に潜む赤海胆を素手で捕獲します。
酸素ボンベは使いませんので、一度に潜水できる時間はおよそ2分間となります。 赤海胆は深い場所にいるうえに、少しでも傷をつけてしまうと弱って自ら棘を落とし、死んでしまいますので細心の注意を払いながら、なおかつ手早く漁を行わねばなりません。 昔と比べてだんだん赤海胆も少なくなり、思うような漁ができないと、嘆いておられました。
赤海胆が減ってきた原因として考えられるのは、赤海胆の乱獲や密漁、地球環境の変化など、様々な要因が考えられるそうです。 辻さんはウエットスーツを脱ぎながら、そう教えてくれました。
今年は台風13号が長崎を直撃し、さぞかし赤海胆が少なくなったのではないかと尋ねると全然そういうことはなく、むしろ、来年当たりは豊漁となるのでは?と、辻さんはおっしゃいます。
理由は、台風が接近すると、海や近くの山が荒らされるのですが、その荒らされることがかえって海胆漁には好都合なのだそうです。
なぜならば、台風が来ると、コンブやカジメ等海胆のエサとなる海草が海底に落ちます。 海胆は海底に生息しており、その落ちてきた海草を食べます。 いつもよりもエサの量が多いわけです。 そして海草を沢山食べた海胆は、大きく成長してくれるだろうとのことでした。
山に台風が接近することにより雨が降り、その雨は山に流れる川をとおって海へ流れ込みます。 これが山のミネラル分を、海に供給することになり、海の状態が非常によくなるのだそうです。 よい海の近くには、かならず山があるとおっしゃいます。
最後に辻さんはこうおっしゃいました。
「自然は余計なことはしません。 台風がくるのも意味があり、自然界はすべて相互依存関係にあるのです。 ですから人間が手を加えすぎるのも、どうかと思いますけどね。」
関連商品
TrackBack URL :
Comments (0)